フリーランスエンジニアだからこそ意識したい、機密保持契約書の確認ポイント
2021.09.08
当社ではフリーランスエンジニアの方々とお話する機会が多いのですが、その際によく相談を受けるのが「契約トラブル」に関してです。フリーランス白書2020によると、フリーランスとして働く方々のうち、約半数が「契約トラブル経験がある」と答えています。特に多いトラブルは「支払い遅延」「納品トラブル」といった内容ですが、些細なことが実は大きなトラブルにつながってしまう、そんな怖い契約トラブルも存在します。
その代表格が「機密情報」に関するトラブルです。機密情報といえば「NDA(機密保持契約書)」を想定される方も多いかと思いますが、実は機密保持契約書をしっかり読み込まないと、場合によっては数億円の損害賠償を提示されるケースも十分考えられるのです。
特にフリーランスエンジニアは、業務の性質上、様々な機密情報を扱いますので、情報管理を徹底する必要があります。
ですので今回は、「NDA(機密保持契約書)」を締結する際に、フリーランスエンジニアとして気をつけるべきポイントをまとめてみました。そもそもなぜNDAを締結すべきなのかについてもまとめておりますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
なぜNDA(機密(秘密)保持契約書)を締結する必要があるのか
それでは機密保持契約(以下:NDA)について解説させていただきます。まず最初に解説させていただきたいのが、「そもそもなせNDAを締結しないといけないのか」についてです。意外と知られていないですが、大前提として、NDAの締結は「任意」であり「義務」ではありません。ですので双方がNDAを締結していないとしても、特段法律的に問題はないのです。
ではもしNDAを締結していなかったらどうなるのか。特許の有無など様々な条件があるので一概には言えませんが、基本的には民法によって判断されます。特に判断に用いられるのが民法416条の条文。
1.債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2.特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
条文だけだと正直読み解くのが難しいかと思いますので、何をお伝えしたいかを解説させていただきますと、もしNDAを締結せず、情報漏洩トラブルが起きてしまった場合、民法416条2項にある「当事者がその事情を予見すべきであったとき」の範囲が最も重要な争点となります。
事前にNDAでいうところの「機密情報」について、双方で用語の定義がすり合わせられていないとどうなるか。そもそも「機密情報とは何か」の認識がお互いに合っていないので、まず共通認識を持っておく必要がありますし、そもそも「どこまで公開して良いのか」も決まっていないため、情報が漏れたことが責任に問われるのかも判断できません。
この状況だと、もし被害者(情報が漏れてしまった側)が加害者(情報を漏らした側)を訴えたとしても、訴訟期間がかなり長引きますし、お互い情報漏洩のリスクで常に訴えることができる状態なので、双方が心地よく仕事ができるはずもありません。
ですのでほとんどの企業は、事前にNDAを結んで、情報漏洩リスクが起きた際、円滑に対処できるように準備するのです。
フリーランスならではの情報漏洩リスク
前述でNDA締結の重要性について解説させていただきましたが、フリーランスエンジニアだからこそ起きやすい情報漏洩トラブルはどんなことが考えられるのでしょうか。
当社がフリーランスエンジニアの方々とお話してみて起きそうなトラブルは下記の2つです。
・「機密情報の定義」がズレていた。
・案件獲得するための実績を他社に公開したところ、そこから情報が漏れてしまった。
では具体的に解説していきます。
「機密情報の定義」がズレていた場合
まず最初に解説するのが「機密情報の定義」です。実はここが最もトラブルになりやすいトラブルかと思います。具体例でお伝えすると下記のようなケースです。
エンジニアAは得意先Bから新商品のリリース情報を口頭で共有いただいた。得意先からは「リリースまでは他言無用でお願いします」などのような告知は受けていなかったため、Aは友達Cにリリース情報を伝えてしまった。友達Cはリリース情報をSNSでアップしてしまい、リリース前に商品情報が伝わってしまった。
情報漏洩トラブルとしてすごくわかりやすい事例ですね。ではこの場合、法律ではどのように扱われるのでしょうか。結論からお伝えすると「NDA内でどのように記載されているのか」が争点となります。よくNDA内の前半部分にある「機密保持情報の定義」に該当する箇所ですね。
例えば、エンジニアAと得意先Bとの間で締結した機密保持情報の定義が、「得意先Bに関わる情報全て」だとした場合、エンジニアAは得意先の情報を外部に伝えてしまっているので、エンジニアAは損害賠償責任に問われます。
しかし、機密情報の定義が「得意先Bに関わる情報全て」であるケースはかなり珍しい事例です。なぜならこの定義だと、エンジニアAは外部パートナーと協力して働くことができないですし、仮にエンジニアAが「得意先Bの情報」と知らなかった場合も責任を問われてしまいます。ですので、機密情報の定義としては「得意先BがエンジニアAに対して機密情報を伝えた場合」など機密情報範囲を明確にすることが多いです。
この定義は多くのNDAで使われる内容ですが、例外も少なからず存在するため、必ず案件受注前には機密情報の定義を把握するようにしましょう。(もし機密情報の定義が「得意先に関わる情報全て」などかなり厳しい条件だった場合は、得意先と交渉することをお勧めします。)
案件実績の公開トラブルに関して
次に解説したいのが、「案件実績の公開トラブル」に関してです。こちらは自ら案件獲得をする必要があるフリーランスエンジニアならではのトラブルかと思います。よくあるのが下記のようなパターン。
エンジニアAは得意先Bから許可を得て、得意先Bの実績を営業資料や営業活動で活用した。数ヶ月後、エンジニアAが営業提案を行った企業Cが、得意先Bと似ている仕様のサービスをリリースした。
ここで重要な争点になるのが、「エンジニアAは得意先Bから許可を得ている」ことに関してです。ですがNDA内ではどこまで公開しても問題ないか、明記していないことも非常に多いのです。ですのでもし実績を公開する際は、必ず書面(メール等)で実績公開範囲を明記することをお勧めします。
またこのようなトラブルは、NDAと似たような性質を持つ、競業避止義務についても理解しておくと良いでしょう。詳しくは下記の記事でまとめておりますので気になる方はぜひ読んでみてください。
>>【かなり危ない】フリーランスエンジニアは競業避止義務について知っておこう。
NDAは専門家に見てもらうこともおすすめ
前述のようにNDAは、双方が想定もしていなかったところでトラブルが起きてしまいます。またNDAは他にも「損害賠償規定」や「NDAの有効期間」なども争点になりますので、もし締結する際は必ず契約内容をチェックするようにしましょう。
しかし、慣れていない方が契約書をチェックするのは非常に難しいですよね。法律トラブルによるリスクを避けるためにも、可能な限り弁護士や先輩フリーランスと相談できる環境を整えておきましょう。
実際にフリーランス白書2020のデータを見てみると、フリーランスの方が法律トラブルを起こした際、真っ先に相談するのが弁護士ではなく「知人・友人」だそうです。このデータからわかるようにフリーランスの方は、弁護士に相談するケースが23.5%と少ないのです。
NDAの中身については先輩フリーランスや友人・知人といった方々に相談すれば、ある程度のことは教えてもらうことも可能かと思われますが、その他、複雑な契約になりそうなときなど、トラブルに見舞われそうな可能性を排除するためにも、些細なことを相談できるような法律の専門家を探すなど、フリーランスとして安心して活動できる体制作りを検討してみてください。
もし契約締結が大変なら
とはいえいきなり弁護士のような法律の専門家とのコネクションを構築するのは難しいというのも現実です…。そういった中、トラブルを可能な限り回避しつつ、本来の業務に集中できるようにするにはどうすればいいのでしょうか。
そこでぜひご検討いただきたいのが、案件交渉をプロにお任せすること。本来、フリーランスエンジニアはコードを書いたり、プロジェクトの要件定義を考るというのが本来の仕事ですが、何かの拍子に法律トラブルを起こしてしまうと、その対応に追われてしまい、やるべき仕事に時間が割けなくなってしまいます。
そのリスクを軽減してくれるのが「フリエン」のような営業代行サービス。案件紹介はもちろんのこと、フリーランスで働く人が苦手視するような法律・ファイナンス・会計周りのご相談も可能です。今回のような契約トラブルはもちろんのこと、よくある未払いトラブルの弁護士保証も検討可能です。
フリーランスエンジニアは組織に属しません。ただでさえ1人で抱えがちなのです。その結果、本来求めていた「自由」が失われたら元も子もないでしょう。そんな時は「フリエン」に相談してみてはいかがでしょうか。
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